チェルノブイリ原発事故についてどれくらい知っているだろうか?
自分はウイキペディアやYouTubeでいろいろ見ていた結構知っている方だと思っていた。このドラマを見るまでは…。
ウイキペディアではわからなかった真実、ドラマだからつたわる真実がここにある。
このドラマ【チェルノブイリ】は全部で5話。
第1話「1時23分45秒」
第2話「現場検証」
第3話「KGB」
第4話「掃討作戦」
第5話「真実」
それぞれ自分が感じたのは、【嘘→現実→犠牲→戦慄→真実】。嘘から始まり、最後には全ての真実が明らかになるのです。
嘘
第1話は嘘の情報が広がっていく様子が描かれている。
発電所では何が起こったのかわからず、原子炉が吹き飛んだにもかかわらず、非常用タンクが爆発しただけだと責任者は思い込んでしまう。部下の報告、建物の状況を見ても考えは変わらない。
そう責任者は保身のことで頭がいっぱいなのである。
人間極限状態では正常な判断が出来ないということを最初から見せつけれれる。あの日福島でも同じことが起こっていてのだろうか?もしチェルノブイリで正確な情報が適切に拡散されれば犠牲になった人を減らすことはできただろうか?
もっとも怖かったのは、上司に線量は3.6レントゲンと報告していたが、本当はその線量計で測れる上限が3.6レントゲンで針が振り切っているという現実だった。のちにわかった線量は、15,000レントゲンと桁違いだったのだ。
そんな環境の中作業している作業員達、次々嘔吐し倒れていき現場の過酷さがよくわかった。そんな酷い事故にも関わらず、市民には情報は伝わらず、のんきに「綺麗だね」なんていいながら火災現場を眺めてる。この人たちは全員死んだそうだ…。
正確な情報が拡散され、避難できていたら死なずにすんだ人たちは何人いただろうか?
現実
第2話では夜が明け、どんどん現実が明らかになっていく。
ヘリで原子炉上空からの状況を確認、屋根の上に飛び散る黒鉛(チェルノブイリ原子炉の内部には黒鉛が使われている)、高性能な線量計測定した結果15,000レントゲンを記録し、ようやく原子炉が爆発したことが確認されるのだった。
放射線の恐ろしさが次のように語られます。
RBMK型の原子炉はウラン235を燃料として使用しています。ウラン235の原子はそれぞれが弾丸です。高速に近い速度で飛び全てを貫き通す。気も金属も肉体もです。ウラン235には弾丸が何兆個も含まれます。1グラムにです。チェルノブイリには300万グラムあり、今、燃えています。風に乗って放射性粒子が大陸に広がり、雨と一緒に降ってきます。何万、何億、何兆という弾丸が空気や飲み水や食べ物に入り込みます…。
放射線を弾丸に例えるのはイメージしやすく、すごくわかりやすいです。YouTubeにある福島の汚染された土からでる放射線を可視化する実験の動画を見ると更にイメージできます。
そう、福島でも同じことが起きているのが現実なのです。
さらに2話の終わり方が1番怖かった。汚染水であふれる地下タンクにメルトダウンした燃料が侵入することで大規模な水槽水蒸気爆発の危険が差し迫っていた。水蒸気爆発を回避するためには汚染水で満たされた地下に入りバルブを開ける必要がある。被爆の危険をわかっていながらも3人が手を上げた。防護服を身に着け汚染水の中に入っていく3人。聞こえるのは線量計のジジジッという音と、3人の息づかい。奥に進むにつれジジジッという音が大きくなっていき、放射線の影響で懐中電灯の明かりが消え真っ暗になる…。
暗闇の中、聞こえるのはジーーーーーーと強く発する線量計の音とハァハァという荒い息づかい。そのままエンドロール。実に怖い。あの人たちどうなったの?バルブ開けは成功するの?高い汚染水でこの人たち死んじゃうの?といった不安がどっと押し寄せてきて、呼吸が浅くなっていた。
このドラマの演出、効果音、BGMの使い方はすごい。特にBGMが重い。見終わると気分も重くなる。ここまで重いドラマは初めて。この演出が高評価に繋がっていることは間違いない。
犠牲
第3話では犠牲になった人々に焦点が当てられている。
あの日作業していた原発職員は?何も知らずに初期消火にあたった消防隊は?の答えがここにある。
正直かなりきついです。変わり果てた姿がリアルに表現されすぎている。肌は水泡ができ、やがて黒ずみ腐っていく。実際、被爆した人たちがどうなるかの知識がない人にとって衝撃的すぎる表現だった。もう一度みるのは結構辛い。
自分の知らなかった事実もあった。炉心溶融物をコンクリート床で食い止めるため、液体窒素を用いる熱交換器を地下に設置することになる。建屋内には入れないから、外からトンネルを掘らねばならない。重機は使えない。
そこで呼ばれたのが、炭鉱夫たち。彼らは50度にもなるトンネルの中で過酷な作業。そんな中でマスクなどつけれるはずがない。最終的には裸で作業していた。彼らの犠牲は知らない人が多いのではないか?まさに影の功労者達である。
第3話は知らなかったことがぎゅっと詰まった1時間だった。ゆえに衝撃も1番大きい1時間だった。
戦慄
第4話は除染作業の現実が描かれている。
除染作業といえば防護服を着てスコップで汚染された土を除去したり、洗浄機を持って洗い流したりなんてイメージですが、そんな優しいもんじゃない。
描かれてるのは、避難区域で残されたペットの駆除や、原子炉の爆発で吹っ飛んだヤバいくらい放射線を放つ黒鉛の除去。
ペットの駆除は見るの辛いです。特に犬好きの方は苦痛極まりないかも…。うちには猫がいるのですが同じような目に合うところは想像したくありません。しかし、これも現実に起きていたことなのです…。
原子炉の爆発で吹っ飛んだヤバいくらい放射線を放つ黒鉛が、どれくらいヤバいかと言うと、ロボットを投入したけど、ガンマ線で電子回路が焼き切れて数秒で動かなくなるレベル。
ロボットでダメだったのに一体どうやって黒鉛を除去したのでしょう?そう、人です。
防護策を施しても2分作業すれば寿命が半減し、3分作業すれば余命数ヵ月となる環境で、1人90秒スコップを持って黒鉛を除去していく。
想像できない恐怖。いるだけで見えない放射線に身を削られる。
黒鉛に足が引っかかり、転んで靴が破けてる人が印象的だった。戻ると、「君は終わりだ」と告げられる。何が終わりなの?あの人死んじゃうの?
想像を絶する恐怖の中、たくさんの人が身を削り黒煙を除去した事など知らなかった…。
真実
第5話の最終話でチェルノブイリ原発事故のすべてを知ることになる。あの日何が起こったのか?ソ連が何を隠していたか?
すべては”ウソ”から始まったという真実が淡々と語られる。
第5話は裁判の様子が描かれています。原子力発電の仕組み、事故を起こしたチェルノブイリの原子炉の欠陥、そして事故のメカニズムがわかりやすく説明されている。知識がない人でも理解できるレベルで伝えてくれる。
そこですべてを知ったとき、1話からの出来事が全て繋がるのだ。
そして原子力の前では人間はあまりにも無力だということを知ることとなる。原子力は強力だ。だが、放射線は目に見えない。だからよくわからないものとして捉えてしまっていた。しかし、このドラマは見えないものを見せてくれた。放射線を浴びた人はどうなるのか?汚染された街はどうなるのか?あの日何が起こっていたのか?
見せられたのは想像を遥かに超える現実、危険、そして犠牲だった。
日本人として福島でも同じようなことが起こっていたと想像すると胸が苦しくなった。これから私達は福島の事故、そして原子力発電と、どう向き合っていけばいいのだろう?
しかし、原子力発電の恩恵を受けているのも事実だということを忘れてはいけない。この矛盾する感情をどこに向ければいいのだろう?
第5話の最後に30年以上前の当時の映像が流れる。その生々しい映像と字幕により、これまで5時間の話はドラマ用に過大な表現をしたわけではなく、全て現実に起こったことなんだと改めて知ったとき、静かに流れるエンドロールを黙って見つめるしかできなかった。